難しい言葉なら考え付くけど 容易い言葉の方が言えないって思う #0 不機嫌なラブレター 彼が、好きだ 自分と同じ顔同じ声同じ身体 別にそれらを好きになった訳ではない ナルシストじゃあるまいし 彼のそれと同じ自分を見てを可愛いと思う事もない 彼の傍にいるのはもぅ慣れに慣れた筈なのに今更この胸は煩く音を立てる 聞きなれた筈の彼の自分を呼ぶ声に上手く息が出来ない 見慣れた筈の彼の顔を見るたび、キスしたくて、困る。 いつでも抱きしめたくて、困る。 「ジョージ!!」 ふいに呼ばれた声に、振り返る 「リー」 長い渡り廊下を独特のチリチリ黒髪を揺らしながら走ってくる彼は、双子の悪戯仲間であり1年の時からの悪友リー・ジョーダンその人だった 「ちょーどよかった。ホラよ、いつものやつ。」 パサリと、胸に押し付けられたのは綺麗な色の封筒 赤い蝋で封をしてあるそこにはAの文字があった 「相変わらずモテルよなー。俺なんか体のいいパシリだ」 「………」 押し付けられた封筒を、常に無い様子でジーと食い入る様に見つめる その様子に気づいたのかリーは少し怪訝な顔をした 「どうかしたか?」 「いや、何でも。…いつも悪いなリー」 「どーいたしまして。じゃ俺戻るわ」 「ん、じゃな」 手を振って今来た道を逆に戻っていく彼の背中を見送りながら、さてどぅしたものか。と暫し廊下の真ん中で考え込む 蝋のAの部分を指で少しなぞってから、暫く逡巡した後それをシャツの胸ポケットに仕舞い込む 行き先は一つ 誰もいないトコロ 今は使われていない空き教室の椅子に座り、手紙を胸ポケットから取り出す 机の上において、暫し沈黙。 指先が何度も手紙の上を滑るが、一向に開ける事ができない 綺麗な文字で書かれた ‘Deaest George Weasley.’ 裏には赤い蝋の上にAのイニシャル これはどこからどぅみても明らかに世間一般で言う「ラブレター」と呼ばれるもの 貰った事は幾度とあるが、どぅにもこれには手を付ける事ができない 「…A……Aって誰かいたっけ…」 近いトコでアリ−シャ、アンジェラ。アンナもいるしアニ−もいる。 それからアイノにエーカー、エアミーもいたっけ。 考え出せばキリがない。世の中Aがつく名前は結構いるものだ 開けて中身を見れば一発で判るその人の名を、だけど調べる事ができない ハーっと深い溜息をつくと、フレッドはそのまま机の上に突伏した 「…ジョージに、渡さなきゃダメだよなやっぱ」 「これ」 「…何」 その夜、部屋のベットで寝転んで雑誌を読み耽っていたジョージの頭に、ポス、と手紙を置く 実際には手紙で叩いた、というべきだが。 「昼間リーが間違えて僕に渡してった、いつものだってさ」 「……あー、あ。悪い」 「ん」 結局手紙を開ける事はおろかそれに触れる事さえ手紙を胸ポケットにしまう時以外なかった 別にこんな事は初めてではなく実は何回もあったりするのだが、(むしろ渡してくる本人にさえ間違われた事があった) どーにも落ち着かない こんなのは初めてだ ジョージに対する態度も、どことなくぎこちない いつもならこんな場面手紙を無理やり一緒に読むくらいのふてぶてしさはあった筈だったのに 今はその手紙をジョージの手から奪い取って破り捨てたいくらい そんなフレッドのどこか余所余所しい態度に彼の同朋ジョージが気づかない訳が無く。 「フレッド?」 「………」 呼ばれた声に、答える事もできない 今すぐ振り返って笑いながら「何で同じ顔なのにお前にラブレターがいくんだ」くらい、軽口を叩きたいのに。 それすらもできない 訳の判らない苛立ちが全身を支配する 自分の子供っぽさが、嫌になる 「なーに怒ってんだい」 椅子に座っていたフレッドの背中に圧し掛かるように抱きついてジョージが軽口を叩く 「怒ってないよ」 「怒ってる」 「怒ってない」 「怒ってるよ」 「怒ってないって言ってるだろ!」 「ホラ怒ってる」 「…っ君がしつこいからだ!」 そんな言葉遊びの様な問答に更に苛々が募る 思わず肩にあったジョージの顔を見てそぅ答えたのだが。 ジョージはそんなフレッドの顔を見て、目を驚愕に見開いた 「…なんつー顔してんの」 「………」 ジョージにそぅ言われて。 きっと今自分がどんな顔をしているか聞かずとも安易に想像がついてしまったフレッドはふい、と横を向いてしまった そんなフレッドの所業にジョージはフレッドの肩へ絡まる様にまわしていた手で、フレッドの顔を無理やりコチラに向かせる それでも目を合わせようとしない、自分と同じ顔の愛しい人 「フレッド」 呼びかけにすら、答えない 彼のそんな行動を不審に思いながらもその所為で凝視してしまう、自分と同じ彼の顔 自分と目を合わせない為に僅かに伏せられた瞳に被さるような赤い睫 頬に僅かな影を落としているそれは、自分とは明らかに長さが違う この頬を柔らかくくすぐる髪は同じ色をしているものの、彼の方が少し長くその分くせ毛だったりする 微かに吐息が漏れる唇はしっとりとして、自分より少し厚め 触れたら柔らかいそれは、何度か味わった事さえある 彼は、知らないだろうけど。 いつまでも目を合わせようともしないフレッドに、今度は逆にジョージの苛々が募った どぅにか意識をこっちに向かせたくて、頬に添えていた指先で顎を伝って、下唇を親指の腹で撫ぞる その指先から顔を背けようとしたフレッドを無理やり上に向かせ 初めて、彼の意識があるうえでの口付け 触れるだけのそれは、それでもフレッドの目が驚愕に見開かれるには十分なもので。 「…っだよ、新手の嫌がらせかい?」 ゴシ、と唇を手の甲で拭いながら顔を真っ赤にして睨みつけてくる しかもそのキスに隠された意図を、彼が間違って汲み取るおまけ付き (いい加減、気づいたらどぅなんだい?) いつもなら自分の意を目を合わせずとも違う事なく汲み取ってくれる彼は、けれどこの思いには全くといっていいほど気づいてくれない こんな時だけ、彼は自分を読む事ができなくなる こんな時に限って、どぅして。 (無意識に気づくのを避けてるのかそれともただ単に) 「…興味、ないって事か」 「は?」 「…この手紙の主に会ってくるよ。…今日は、部屋に戻らない」 スルリと回されていた腕を解いて自分から離れていく同朋 キスをして、意味の判らない事を呟いて 突き放される様な、最後の言葉 こんな時、いつも彼の心が読めなくなる 1番読みたい時に限って、いつもその意を捉える事ができない 生まれる、距離感。 離れていく彼を、追いかける事もできやしない 椅子に座ったまま、部屋の扉が閉められる音を聞いた それと同時に消える、彼の存在。 指先が寒くも無いのに小さく震え、心臓が今更煩く音をたてる 顔が熱くなっていくのが判って、胸が締め付けられる様に痛い 息の仕方を忘れてしまったかのように絶えまなく吐息が零れた それからどこか意識の奥底で 彼を本当の意味で好きなんだと、気づいた 「…っ、最、悪だ…」 好きだと気づかせておいて、あの言葉 手紙の主と会ってくる? 今日は部屋に戻らない? 好きだと気づかせておきながらそんなの 開いた唇から伝わるしょっぱい味 泣いてる事に、気づいた 彼が、好きだ 自分と同じ顔同じ声同じ身体 別にそれらを好きになった訳ではない ナルシストじゃあるまいし 彼のそれと同じ自分を見てを可愛いと思う事もない 彼の傍にいるのはもぅ慣れに慣れた筈なのに今更この胸は煩く音を立てる 聞きなれた筈の彼の自分を呼ぶ声に上手く息が出来ない 見慣れた筈の彼の顔を見るたび、キスしたくて、困る。 いつでも抱きしめたくて、困る。 抱きしめたくて、困るのに。 扉の向こう側 椅子に座る彼 聞いても気づいても知ってもくれない 愛すべき同胞 ねぇ、可愛い人 興味ないならいっそ嫌ってよ |