-----こんなに長い幸福の不在-----



愛され方を知らない僕は、愛し方を知らない



#0 こんなに長い幸福の不在



鬱陶しい。





人に干渉される事がこんなにも鬱陶しい事だとはこれまで一度も思わなかった
否、以前の状態は干渉どころか存在すら許されていない状況だったからかもしれない
けれどあの時確かに僕は誰かに愛されたいと思っていた

なのに

愛された今、不必要な愛程邪魔なものはないと。










「ハリー!」

呼ばれた声に、ふと振り返る
既に毎日の様に聞きなれたその声が、逆に鬱陶しいくらいにこの耳を占領する

「フレッド?」
「ピンポーン♪」
「何?」
「何、用が無いと君に会う事もままならないのかい僕は」

今にも廊下に座り込んでしまうような大袈裟な身振りでフレッドが言う
だから、それがウザイんだって。
毎回毎回用も無いのに呼び止めてはどうでもいい事ばかり
そんなに暇ならスネイプにでもちょっかいかけてくれてた方が余程君を好きになれるよ

「おい、フレッド!」

近くの教室からおもむろに顔を出してこのウザイ男を呼んだのは
フレッドと全く同じ顔した男、ジョージだった

「おやハリーまで、何してるんだい?」

そんなのこっちが聞きたいってのに。

ジョージは教室から出てきてフレッドの横に立った

「1人かい?」
「うん、ちょっとね」

わざわざ1人になりたくてあの2人から離れてきたのに、この2人に会ったらまるで意味がない
むしろ逆にウザすぎるくらいだ。
こんな事ならまだあの2人と一緒にいる方がマシだ。
あー後悔。

「それよりフレッド、君の事をマクゴガナルがお呼びだぜ」
「えっ何で」
「さぁ?早く行って来れば」
「ん、じゃーハリー、また後でな」
「うん、バイバイ」

後で、なんて。
冗談じゃない
一日1回会うだけでも耐えがたい苦痛だってのに
そんな何回もあってられるかっての

「ハリー」
「何?」

廊下の角を曲がったフレッドを横目で見やるジョージに名前を呼ばれる
絶えられない
今すぐこの場から離れたい
なのに彼はそれを許さない様に自分の前に立ちふさがった

「コレ、あげる」

手を捉えて渡されたものは、一粒のミントキャンディ

「たまには飴でも舐めてリラックスしてみたら?」

そぅ言って、彼は教室に戻っていった

何?
何が言いたいんだよあの男
意味判んない
だいたい食えるのかコレ?
あの双子からもらったものなんてあからさまに食うなと言われてるようなものじゃないのか?
あー捨ててしまいたい
いいや後でゴミ箱に捨てよ
あんな男からもらったものなんて食いたくも無い

「あーウザ」

ボソリと、眉間を寄せて呟く

本当に自分でも抑制ができない程嫌いで嫌いで仕方ない
フレッドも十分にウザイけど、ジョージの方が比にならないくらい嫌いかもしれない
というか多分、この学園中、むしろダーズリ−一家より嫌いかもしれない
否、自分に干渉してこないだけこの学園の人よりまだあの家族の方がマシだと思えてくる
以前まではあの家族より嫌いな人たちなんて存在しないと思っていたのに。




そんな事をつらつらと考えながら歩く彼の後姿を影から見ながら、ジョージは溜息を吐いた










大広間の扉に通りかかったのも、間違いだった

「あ、ハリー。もぅいいの?」
「うん、まぁ」

嘘をついて2人から離れた自分に、1人でいたロンが声をかけてきた
問いに曖昧に答えて仕方なくロンの横に腰掛ける
ガラリとした大広間には数えるくらいの人数しかいなかった

「ハーマイオニ−は?」
「例の如くいつもの場所で軽い読書だって」
「そぅ」

君も一緒に行ってればよかったのに。
思わず口をつきそうになった言葉をロンに気づかれないように飲み込む
どうやらさっき双子と会った時に、更に苛立ちが募ったようだ
女みたいにイライラして自己中に振舞ってしまいそうだった


夕食時、全く不運なことに目の前を双子が占領した
こんな事は時たまある事で、別に今更嘆く事もない。
苛立ちは多少あるものの、それを微塵も出さずに接する事など朝飯前。
夜は、何もかも忘れてゆっくり寝るはずだった

寮に戻る時、ジョージが僕を呼び止めるまでは。








明らかに人気の無い時刻を指定してきたのは何らかの作為を感じ取れた
しかしそれを拒否できる確固たる理由も無く。

結局、ひっそりと帳の落ちた夜のグリフィンドールの談話室に
暖炉を前に、ジョージといた。

「悪いな、こんな夜中に呼び出して」
「平気、明日は授業ないし」

コレが彼の誘いを断れなかった一番の理由
明日授業があれば夜遅いのは無理とか何とか言えたかもしれないのに
多分彼も、その考えを見越しての今日だったのだろう。
休みの前日を選べば、遅くても翌日に何ら支障はない筈だから。


「ねぇハリー」
「何?」

イライラしながらも表面上はいつもと同じように普通に振舞う
そんな自分にジョージはヒソリと苦笑して呟いた


「…そんなに僕の事が嫌いかい?」

ドキリと胸が響く
言葉が、息が詰まって何も言えなかった

「いや、僕だけじゃない。フレッドの事も、ロンの事も…学園の皆の事、嫌いだろう?」
「…何言って…」

ガラリと変えられたシリアスな雰囲気に
ヤバイと、一瞬にして思った

見破られている嘘に、声が震える
引き攣った様な笑い方しか、できなかった

「君の演技力は実に素晴らしかったよ、そぅ、この僕でさえ気づいたのはほんの1ヵ月前だというんだからね」
「………」

ジョージは片目を瞑って肩を軽く竦めてみせた
相手の顔さえ見れず、息さえも上手につけない
ただ見破られた嘘が頭の中でグルグルとまわり続ける
そんな自分にジョージは困った様に笑って

「…沈黙は、肯定とみなしていいのかな?」
「ッ、ちょ、っちょっと待ってよ!」

ジョージの一言にハッ、として勢いで声を出す
そのくらい見破られた事に動揺していると言う事か

「何?」
「何言ってるのさジョージ、何で僕が学園の皆の事を嫌いになる訳?」
「さぁ。ただ君を見てて気づいたのかな」

まさか。まさか。
そんな筈ない。これだけ気を使って隠してきたんだ。
ばれる訳がない。

「僕は別に皆の事嫌いじゃないよ」

あくまで普通に、自然体として振舞う。

「皆の事は、ね。でも僕の事は嫌いだろ?」

なのに彼は、皮肉そうに微笑んでそう言った。
当たり過ぎいる彼の言葉に、流石にいつものように流れるような嘘は出てこない
つい、唇を噛締めて苛立ったように言葉がでる

「〜〜だからっ」
「もぅいいよハリー」
「何が」

人の話を全くもって聞こうとしない彼に、更に苛立ちが募る
言葉が、乱暴になっていくのを感じた

「ねぇハリー、僕があげた飴、あれどぅした?」

瞬間、ドキリとした。

「はぁ?そんなのとっくに食べちゃったよ」
「食べたの?本当に?捨てたんじゃなくて?」

あからさまに感じる、彼の陽動作戦に冷や汗が背中を滑った
まさか。
判る筈ない。

「何言って」
「コレ、何だ」

そぅ言ってジョージが取り出した右手には、
先ほど自分が貰った飴と同じ物

「…あの時くれた飴でしょ」

「そぅ、あの時と全く同じ飴。でもコレ、拾ったんだよ。ーゴミ箱の中に落ちてたから」


確実に、彼は知っている
捨てたのが、誰かと言う事を。


「…へー」

声が震えそうになるのを、必死で抑える


「勿体無い事するなーって思わない?」
「別に、たかがキャンデーひとつ」
「いっぱいあるから?ひとつくらい捨てても構わないなーって?」
「じゃないの?知らないよ」

その答えを待っていましたと言わんばかりにジョージはにっこりと笑った

「実はさーこのミントキャンデー、世界に3つしかまだないんだよねー」

一瞬、彼の言った言葉が目の前を通り過ぎた

「…え?」
「これ、フレッドと僕が作ったやつ。」
「………」
「で、一つを君に。残りの二つは、ココに。」

そう言うと彼は、左のポケットからミントキャンデーを二つ、取り出した


「…おかしいと思わない?」


言葉が、


「何で世界に3つしかない筈のキャンデーの内二つは僕が持ってて」


声が、


「最後の一つを君が食べてて」


奪われていく


「じゃぁコレは?」


彼の罠に、




「勝手に分裂して増えるキャンデーを作ったつもりはないんだけどなぁ」



今、確実に嵌った自分がいる。
















どこかで、鍵が開いた音がした。

出てきたのは

今まで隠してきた自分


「…食べてない」
「何?」

ボソリと呟いた言葉
彼がそれを聞き逃すはずもなく

「それ僕が捨てたやつ。食べてない。だから世界に3つのままだよ」

言葉に彼は、酷く落ち着いているようだった。
まるで、全て解っていたかのように

「何で捨てたの?」
「嫌いだから」
「ミントキャンデーが?」

一度目を伏せて溜息をつく
それからゆっくりと顔をあげ、ジョージの目を睨みつけるように凝視した。


それから、一言だけ。


「君が」








フ、と彼が笑ったのを視界の端で捕らえた。

「はっきり言われると傷つくなー」
「言わせたのは君でしょ」

さっきまでの媚びた声とはまるで違う、誰にも聞かしたことがない冷たい声。

「そぅだね」

なのに彼は、さも楽しそうに笑う
その反応に更に苛立ちが募った。
嫌いと目の前で言われて、笑うなんて思考回路狂ってんじゃないのかい?
勢いに任せて、言葉が続く。

「嫌いだよ。皆の事。ロンもハーマイオニ−もフレッドも…君の事も」
「だろぅね」
「これで満足?」
「うん大満足」

そう言った彼は、本当に満足している様に嬉しそうに笑った。

「じゃぁ僕もぅ部屋帰るね。いつまでも嫌いな人と話してられる程人間できてないし」
「ねぇハリー」
「まだ何かあるの?」

ソファから腰をあげかけた自分の腕をとりジョージは再度問い掛けてきた
さっきまでの嬉しそうな顔は消え失せ、切ないものでも見るかのようにこちらを見やる




「…そんなに好きになるのが、怖いのかい?」


何を、


「好きになって、嫌われるのが怖い?」


彼が、何を言っているのか判らない
唐突に聞かれた言葉は理解不能な他国語の様に、この耳を通り過ぎてく




「好きという感情を認められない?それとも…知らない?」

好き?誰が?誰を?

「でも相手に対しての感情が無視できるものでもなく大きいものだから」

何が?何を?

「その感情を嫌いにおきかえてしまうんだよ」

まさか




「君自身、知らないうちにね」



僕が皆の事を、本当は好きだとでも?





「だから君が大嫌いで大嫌いで仕方ないのない人程、大好きで大好きで堪らない人なんだよ」


嘘だ
嘘だ
嘘だ





だってそうだとしたら









「ハリー」

呼ぶ声に、ハッと我に帰る

「僕が言った事を、君が信じず嘘だと思うのは君の勝手だ」

「そして、今のまま過ごしていくのも君の勝手だ」

「それでも僕は、僕の考えを正しいものとして君を見るから」



そう言ったジョージは、シニカルな笑みを浮かべて




この唇に口付けた。























認めない

そんな嘘

絶対に認めない



だってそうしたら





彼を、誰よりも好きだと言う事で




きっと世界中で1番大好きな人だと言う事で








    ホンネ
そんな嘘、

口が裂けても言えやしないから



END

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中途半端万歳!
解決したんだがしてないんだかの状態が1番好きです。
今回はブラックハリーさんです。
こんなジョハリ大好き
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