笑ってるように、見えるだろぅ? #7 最後の審判 それは哀しい正夢だった あの瞬間から判っていた事かもしれない 彼が、その頬を朱に染めたときから。 彼が『彼』を選ぶことは 判っていたんだ 夢を見た、それは二日後の事だった 長い沈黙を破ったのは、彼が先だった 「…ごめん」 言いづらそうに、それでもはっきりとそぅ言った彼は顔を俯けた その一言で皆まで聞かずとも判り過ぎるほど判ってしまった僕は、一つ、溜息をついて。 「…君が謝る事じゃないよハリー。僕らのどちらかを選ぶか君に選択肢を与えた時から、こうなる事は百も承知だったんだから」 肩を竦めて笑ってみせる。 だけれど辛そうに眉間を寄せたのが自分でも判った しかし俯いていた彼は、そんな僕の表情を見ることは決してなく。 「それに君を知らない誰かにとられるよりかは、あいつの方が百倍も安心だし納得もできる」 辛そうな顔はしながらもそれを彼が見ていないのをいい事に声だけは気丈に振舞う 「だから君が、この事を思い悩む必要性なんて欠片もないんだよハリー」 最後には至極優しい声を発し、全ての表情を覆い隠す それもこれも、悪戯をした際しらばっくれる為に身につけた処世術 ポーカーフェイスくらい、作れなくては彼が困ると知っているから。 「……うん、ありがとぅ…ごめん…」 顔をあげて躊躇った様な笑顔で微笑む彼を、ただ目を瞑ってやり過ごす 「‘ごめん’は、もぅあまり聞きたくないな」 間をおいて、それでも気丈に振舞うこの姿はいつもとなんら変わりないだろぅ この笑顔でさえ、一片の曇りもない筈 そんな僕の対応に、彼の口元から自然と笑みが零れた 「…ん、ありがとう」 「そぅ、そうやって笑ってくれてた方が全然いい。…折角君の恋が叶ったんだから」 少し躊躇いがちに、それでもはっきりとした最後の言葉に、彼は僕から眼を背けた 判っていた展開に、それでも心臓は痛いくらいにこの身体を食んだのが判った 彼には気づかれないよう、唇をきつく噛み締めてから再度言葉を紡ぐ 「…あいつの事、好きかい?」 声が震えなかったのは、自分でも凄いと思った 声が震えてもおかしくないくらい、自分は今彼が想う彼に嫉妬しているから 「………うん」 躊躇いがちに、小さく聞こえた彼の声 本当は今すぐ、全てを聞かなかった事にして彼を浚って逃げてしまいたい 「…僕の事も、少しは好きでいてくれた?」 自分を追い詰めるだけの質問だとは十分判っていた 「…今でも、全然好きだよ」 彼の答えは、何となく知っていた いっそ、何も想っていてくれなかった方が、どんなに楽だったか 君は、そんな僕の心中知るよしもなく言葉を紡ぐ。 「それは光栄の至り…でも、あいつの方がもっと好き?」 「…こんな時でも、意地悪だね」 困った様に笑う彼に、おどけた様に笑って答える 「シリアスな雰囲気は、嫌いでね」 「意地悪なんだか優しいんだか」 「君にだけさ」 間髪をいれずに答えれば、耳元まで朱に染めて唇を拗ねた様に尖らせる 「…やっぱり意地悪」 ボソリと言われた科白は聞かない事にした 息が詰まって何も言えなくなる一歩手前で、彼に気づかれないよう静かに深呼吸をした これ以上の彼との会話でこの心臓が歯裂して、戻れなくなる前にココから逃げたかった 「…あいつに、ちゃんと好きだって言って来なハリー。まだ言ってないんだろ?」 「…う、ん。よく判ったね」 「君の事なら」 「………」 押し黙ってしまった彼に苦笑を隠せない どうやら虐めが過ぎたらしい 知らず彼を追い詰めてしまう程、今更自分が限界まで来てる事を知った 「ハリー」 「……」 未だに黙った様にコチラをみやる彼に、クスリと笑って彼より一回り以上大きな手のひらを差し出す 「これ、やるよ」 「…何?」 そぅいってだした指先からは、零れるほどの赤い花片 マグルの世界での、一欠けらの魔法 「恋が実ったお祝いに…おめでとうハリー」 降り注がれる様な薔薇の洪水に、彼は頬にかかった花片を摘んで、微笑んだ 「…ありがとう」 「どぅいたしまして」 ハラハラと風に舞い踊る様に、一向に落ちる気配のない不思議な花片を視界の片隅に捉えながら尚も言葉を紡いだ 声は、きっと酷く低かった事だろぅ 「…ハリー、僕はきっとまだまだ君の事好きかもしれない」 「え?」 突如言われた科白を理解したのかしなかったのか、彼は不意にコチラを向いた 「君達の恋を認めるのも、君を諦める事も、まだそぅ簡単にはできそぅにもない」 これは、紛れも無い本音 そぅ続けた僕に、彼はそれでも僕から眼を離さずに僕を見据えた 「でも他の誰かに君を奪われるくらいなら、あいつでよかったとも思ってる」 これは、嘘かもしれない それでも、言わなければならない言葉があるのを知っている 「あいつはいいやつだよ。片割れの僕が言うんだから間違いない」 「…ぅん……」 ニコリと笑った僕に、彼は辛そうに微笑んだ 「さて、それじゃーお邪魔虫はここらで退散するとしますかな」 そぅいって、彼の後ろに見える道を仰ぎ見る そこには、パーシーをからかいながらもコチラを気にしている様子で盗み見る、 自分と全く同じ顔をした同朋フレッドの姿があった 「でもねハリー」 遠くを見やる様に眼を細めて、ジョージは呟くように言った 「隙さえあれば、…容赦なく君を手に入れにかかるから」 覚悟しとけよ ヒタリと。 目を冷たい指先に塞がれて、一瞬触れた唇ごしに小さく囁かれた言葉 冷たい指先が離れて 呆然となすがままの自分にクスリと笑った後 何事もなかったかのようにするりと横を通り過ぎた彼を 一拍おいて振り返った 刹那、 眼前を舞い踊っていた花片が舞い落ちて 一片の花片が視界を遮った後 ジョージの姿はどこかに消えていた 残るのは、痛い程に赤く染まった薔薇の花片 薔薇になって逃げよう 魔術的な宇宙の夢 見せてあげるよ |