-----TRAVELING-----



どこへ行くの?

遠くならどこへでも



#0 TRAVELING



「ぅわ…凄い」

下に見える雲が、月夜の光を浴びて灰青と黄のコントラストを醸し出していた
その普通ならば見る事もなかったであろぅ光景を目の前にハリーは呟くように言った

「気に入ったかい?」
「勿論!」

フレッドの言葉にすぐさま傾く
それこそ満面の笑みをたえた顔で

「…でも、こんなのまであるなんて凄いね」
「だろ?パパはホントマグル好きだからな」
「ホント」
「まぁそのおかげで僕達は楽しい玩具が手に入るんだけどね」

ゥオンッと音を立てて更に黄色い月へ向かって急上昇するそれはマグルの世界でいう「バイク」の形をしているもの。オレンジと白を貴重にしたそのフォルムはこの月夜と彼に嫌になるくらい似合っていた

流石に寝るのが鬱陶しくなるような真夏でもこのくらい上にきてしまえば逆に寒いくらいだ
風と雲をきって飛ぶそれは決してニンバスより早いものではなかったがそれでも違う感動をこの胸に与えてくれた

ハリーはフレッドの身体に片手だけで捕まりながら下を除き見るように見回していた
黄色と灰青の雲に映る、自分達の黒い影

「ハリー、そんな事してると落ちるぜ」

見咎める様に言ったフレッドにハリーは大丈夫だよ、と小さく笑った









ロンの部屋で寝ていた筈のハリーが今現在お世話になっているウィ−ズリ−家の階下のリビングに下りてきたのはつい1時間前のこと
どーにも茹だる様な熱帯夜に中々寝付けなくて水でも一杯もらおうかと降りてきただけ
リビングは既に真っ暗でもぅ家族は全員眠りについているようだった

「ハリー?」

コップに手をかけた時後ろからいきなりかけられた声にハリーは一瞬大きくその肩を揺らした

「え、ぁ」

暗闇の中では流石に判別不可能な双子の片割れの声を聞いて咄嗟に名前を呼ぶのを躊躇う

「何してるんだい?こんな時間に」
「ぁ、喉、渇いたから水貰おうかと思って」
「僕もだよ、何だか寝付けなくてさ」
「僕も同じ」

ハリーの横を通りながらリビングにあるその燃える様な赤毛と同じ色のソファに億劫そぅに沈み込む

(…多分、フレッド。だよね)

イマイチ判別つきにくい会話の中からハリーはそぅ思った

「フレッドも、水いる?」

極力不自然にならないようにナチュラルに会話の中に相手の名前を混ぜる
違ってたらゴメンナサイ、だ。

「んー、あぁ。貰えるかい?」

どうやら正解らしい、ハリーはフレッドにばれない様に安著の息を漏らした

(間違えると2人煩いからな…)

ホグワーツにいた頃何度か間違えてその名を呼んだ事がある
そのたんび2人はハリーを囲んでさも真剣そぅに言うのだ

「ハリー、君が僕らを間違えてしまうのは確かに仕方のない事だと思うよ」
「フレッドの言う通り、確かに僕らは実の母親でさえ見分けがつかないほど似通っている」
「でもね、僕等は君に間違われるのはとても哀しい事なんだハリー」
「愛する人に違う名で呼ばれて、僕等がそれに苛まれないとでも?」
「その名を持つ人を、僕らが一時でも憎く思わないとでも?」

などなど。
冗談なんだか本気なんだかいまいちよく判らない科白で延々とこんな事を言う。
その他にだって、もぅ1人の名で呼んだときそのままその人のフリをされ何度バカされたことか。

そんな一年間の経験からハリーはなるべく2人を間違えないようにしていた
本当に頼りになるのは、その時の運と勘だけだったけど


コップに水をいれてソファに座るフレッドに差し出す
どぅも、と一言だけ言ってコップを受けとるとフレッドは黙ってしまった

リビングは相変わらず暗いままでカーテンの僅かな隙間から漏れる月の光だけが2人を包んでいた
いつもは饒舌なフレッドも流石にこんな絡みつく様な暑さの夜では喋る気にはなれないらしい
ただフレッドが水を飲み下す音だけが響いていた


「…ハリー、まだ起きてられるかい?」

空のコップを指先で遊びながら先に静寂を破ったのはフレッドだった

「ぇ…、なんで?」
「眠れない君。夜空の散歩へ、ご招待召されるかな?」

薄闇の中、フレッドがニヤリと笑ったのが判った














今ではあまり進む事をせず雲の上でユラリと漂うように進む
まじかに迫った黄色の大きすぎる月だけが二人の傍観者だ


「あーっスッゴイ気持ちいいー」

少し冷たい風に髪を棚引かせながらハリーは後ろに倒れそうな勢いで反り返った
それにフレッドはやけに心配してみせたが今のハリーにはそれさえも耳にいい音楽の様にしか聞こえない

「ジョージとも結構来るんだ、ココ」

フレッドがゴーグルを上にもちあげながら嬉しそうに笑った

「コレひとつしかないからいつもどっちが運転するかで揉めるんだ」
「どーやって決めるの?」
「コインさ。表がでたら僕、裏がでたらジョージってね」
「2人にしては随分フェアなやり方だね」
「いや、実は前にちょっと表しか出ないように細工しようとしたら向こうも同じ事考えていたらしくコインがおかしくなっちまって」
ッ、君ららしい!」

噴出して、可笑しそうな笑い声が冷たい空気に響く


ひとしきり笑った後、ふいにフレッドがこちらを見つめてるのに気づいた

「…ばれたらジョージやロンに恨まれるな。君と、こうしてる事」
「なんで?」
「…さぁ」
「なにそれ」
「秘密」
「………」

ムーとした顔でフレッドを睨んでみても、そんな可愛い顔して睨んでもダメだよ、と鼻を摘まれた

雲と同じように黄色と灰青の影を落としたフレッドの指先が、あっちこっちに飛び跳ねているハリーの髪を撫でる
その優しい感触に、瞼を閉じる
それから、頬を撫でる冷たい風に瞼を震わせて

目を、開けてみれば


遮るものなんてない視界いっぱいに
レモン・キャンディーみたいな大きくて真ん丸い黄色い月
夜明けの空のように明るい薄闇の空
風に流れる綿菓子の様な白と黄色と灰青の雲
そこに小さく浮かぶ
君と




世界は、それだけ。




「ココにいると、何か全部どーでもよくなる」

夢でも見るような顔で、ハリーは呟いた

「…似たような事、ジョージも言ってた」
「不思議だね。帰りたくない気分になる」


無理だとは判ってて、それでも言ってしまう言葉がある
なのに自分をここまで誘った人は、笑って言うのだ


「じゃぁこのまま駆け落ち、しよっか」
「ぇ、」


パッ、と顔をあげてその人の顔を見上げれば、いつものような不敵な笑みをたえた唇で笑う


「君はパジャマのジュリエット」
「…フレッドは、悪戯好きのロミオ?」
「イエス」


「そなたが望むのであれば、私は全てを捨ててみせよう」


彼の人の科白をまね、その手をとり甲に恭しく口付け落とす
ハリーはそんなフレッドの芝居がかった所業に可笑しそうに笑って


「いぃねそれ」


一言。







ゴーグルを戻し、エンジンをかける
周りの雲が散ったのが目にみて判った
フレッドは月を背にこっちを向いて、笑った




「さて、どちらまでいかれます?」



「…ずっと、遠くまで」





風に跨ぎ月へ上り

僕の席は君の隣で

それはまるで

春の夜の夢の如し



こんな夜なら



不謹慎な望みでも、今なら叶うみたいな気がするよ





END

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ウ●ダさんのtravelingより。
薔薇以前の話ですかね
こんときはまだ避けてません
これから自覚せず好きになって避けます
えぇ。またもやアバウト設定です
てゆーか駆け落ちって。ロミジュリって。
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