-----200M 冬の恋-----



空は何処に行っても青いという事を
世界を回って見る必要はない



#3 



降り止んでいた雪が、いつのまにか窓の外をちらついていた

彼に逢わないまま既に時分は夕刻を過ぎ、季節の所為で落ちる日は早く
外は白い雪が目に見えて判る程暗かった

「………はぁ…」

もぅ数えるのも鬱陶しい程の、溜息をまたひとつ
それから壁にかけてあったローブに腕を通して

「………何、探しに行く気になった訳?」

無言で部屋のドアノブに指をかけた自分を見咎める様にフレッドの声
ソファから身を乗り出してこちらを見やる
相変わらず敵意は剥き出しですか

「……さぁね」

なんて、ただの散歩だけど
ホントの事を云えばきっと彼はまたキツイ眼で僕を睨んでくるだろう
いい加減、それをからかうのもやり過ごすのも疲れたし、余裕もない

一言だけ云って扉を閉めた

談話室に続く階段を降りかけた途中でふと思い立って今来た方向に足を戻す
談話室を通らないで学内へ出る道に変えようと思っただけ。ただそれだけ。
特に理由はない。

彼がソコにいる可能性があるからと、思った訳じゃない。












人1人の影さえ見えない静かな学内は、雪がしんしんと降り積もる音が聞こえてきそうな程だった。自分の足音さえ長年悪戯仕掛けをしてきた賜物なのか癖なのか、こんな時でさえ靴音ひとつ、衣擦れひとつたてない
きっと、気配ひとつないだろぅ

こんな時にさえ。


ふと、自嘲気味に歪めた口元と流した視線の先に、僅かに開いた空き教室の扉
なんとはなしに扉を押した
途端、ひんやりとした冷たい空気

「………さむ」

教室は大講義用教室なのか酷く広かった
加えて今や授業にも使われていないらしく、教室には机と椅子、少しの本がおざなりに積み重ねてあるだけ

(へぇ…こんなとこあったんだ…俺もまだまだだな)

早速フレッドにでも教えてやろうと教室に足を踏み込んで
壁一面を等間隔で区切って飾る窓に眼を向けた

「……っ」

運命の悪戯とは、まさにこの事なのか
それとも偶然という名の必然か

そんな陳腐な科白が目の前をよぎる
そんな陳腐な言葉しか思い浮かんでこないほど、自分は動揺したという事か

途端ヒュ、と耳を掠る風の音
寒い理由が判った
窓の外にちらつく銀色にも似た白い雪が、冷たい空気と共に窓から入り込んでいたのだ

眠る彼に、降り積もるかのように。






考えて行動は、してなかったと思う
気づいたら、意識して気配を消し足音を消して彼の傍にいた自分
彼に気づかれないようにしながら、極力ゆっくりと静かに窓を閉める
閉め切ったところでふぅ、と小さく溜息
白く曇る、窓ガラス

机に片腕を枕にして眠る彼
そこかしこに、白い雪と共に溶けて濡れた痕
そっと、気づかれぬ様に触ればこちらが眼を見開いてしまうほどにひやりと冷え切った肌
まるで体温がなく、死人の様に血の気のない顔。

「…して…」

頭痛でもしたかのように、こめかみをキツク片手で抑える
唇をひとつ噛み締めて、適当に腕を通しただけの自分のローブを剥ぎ取る様に脱ぐと冷たく冷え切った彼に包み込むようにかけてやる
そのまま抱きしめたい衝動を無理やり押さえ込んで、彼の隣に腰を下ろした
人が傍にいるかいないかだけで、その場の気温は随分違うから。
そんな上辺だけの理由で、傍にいたいだけの本音を隠した。


いつの間にか外の闇は一層濃くなり、冷えも深くなってきたのだろぅ
フルリと、彼の瞼が寒さに麻痺したのが見て判った
ローブの裾から杖を取り出し、軽い円を描いて仄かな灯を出す
静かに小さく燈ったオレンジ色の火は、幾つにも分散して自分達の周りを囲む
ジワリと感じた指先の痺れに、自分の体温までもが予想以上に下がっていたのを感じた

オレンジと濃紺に縁取られたコントラスト
さっきまでとは別世界の様に、教室は温かみを帯びた
雪は未だシンシンと降り積もり
隣で眠る彼の寝息だけがこの耳を支配していた



ねぇハリー
僕は、君程僕の云う事を聞かない人はいないと思うよ
それこそ、酷いくらいだ
こっちは君が風邪をひかないようローブを着るようにいつも忠告して
階段を踏み外さないようにその足元から目を離さないで
何だかんだで無茶をしないようにいつも抱きしめていたいのに

君ときたらローブも着ないでこんなトコで窓開けっ放しにして寝るわ
クィディッチじゃいつも守ってやれない事するし
学年末には知らないうちに絶対死んでもおかしくないようなことしてくる


ただ、怖いんだ
君が、僕の知らないトコロでいつか死んでしまうんじゃないかと。
僕の目の前から、永遠に消えてしまうんじゃないかと。


ただ、怖いんだ。











君には決して、言えないけれど。
















「…ん」

心地よい気分に包まれて重い瞼をあけると、覚えのある匂いがした。

「…ジョージ?」

ポツリと呟いた言葉は、誰もいない教室に酷く響いた。

「………なわけないか」

身体を起し、溜息ともあくびともつかぬ吐息を零した。

「…あれ?」

ふいに感じる違和感。
何かが、違っている。
来た時とは違う、決定的な何かに。

「…………?」

小首を傾げながら教室の端に飾ってあった時計を見やる。

「ヤバっもぅこんな時間?!」

夕食食べ損ねた!



それに呼応するかのようにお腹がぐぅぅぅ、と音をたてた。

「…、ハッ」

こんなときでも、お腹はすくなんて。
センチメンタルな気分さえ、ぶち壊しだ。

「ッ………」










苦しい。






彼を想って、この胸は軋む。






心臓を鷲掴みされてるような、



このまま、死んでしまったほうが楽なくらいに、






彼を想って、悲鳴をあげる。












「…ジョ…  ジッ」



スキだ。
スキでスキで、堪らない。

触るのも緊張するほど、
触られるのも怖いほど、






彼のことが、



好きで、



堪らない。









「…でも、きっとそれは、…僕だけ」

ポツリと、言葉が漏れる

瞼をきつく閉じて、熱いものが零れるのをやっとの思いで防ぐ。

愛を返されない事には、慣れていたはずなのに。
十年間、そうやって生きてきたのに。

何で、辛い?










「……っ、寮に、戻んなきゃ…」

ロンが、心配してるはずだ




ぼやけた視界で、前を向く

暗闇の中、階段を降りて扉へと向かう


ふと、明るくなった景色に顔をあげた

明るい、は間違えだった
その白さによって、明るくみえただけだった。


「あれ、こんなの入ってきた時、……」

見開いた視界いっぱいに飛びこんできたものは、黒板だった




一面に白いチョークで殴り書きしてある、ソレ。

見慣れたものだと判るには、時間がかかった。


いつもの彼らしくない、打算など、何もないような字


何回も何回も消しては書き、書いては消してを繰り返したのだろうか

黒板は全体的に白く汚れていて、消えてない文字もいくつかあった

























親愛なる人へ


ねぇ
もぅ君なしじゃ生きていけない、なんて言ったら、
君は笑うかい?



ジョージ・ウィ-ズリ-




最後収集つかなくなって無理やり終わらせたのは内緒です